最後の夜

9.11の直後にドキュメンタリー番組のディレクターをしたことがありました。

そのときワールドトレードセンターの最上階にあったレストランを取材しました。
そこにスーパーシェフがいました。ロマナコといいます。
彼は開店準備の合間にたまたま珈琲を買いに外へ出たところ
飛行機がビルに突っ込み、彼だけが助かりました。奇遇な人です。
番組は彼と仲間のスーパーシェフがニューヨークのレストラン界を
再建するまでの3ヶ月を追っかけ、
番組は兆しが見えてきたような見せかけで中途半端に終わらせました。
彼はインタビューで何度となく、ニューヨークのレストランというのは
華やかだけど賃金も安いし待遇も悪いしとっても大変な仕事なんだと
繰り返し言ってました。
ニューヨークのレストランはオーダーをとる、食器を下げる、洗う、
全てが分業で、特に下っ端はイリーガルな移民が多かったため、
死亡証明書もなければ、義援金ももらえないという状態でした。

あのテロで死んだ従業員の大半は、
早朝から仕込みや掃除をしていた不法滞在者でした。
遺族とともに、まだ煙り立つがれきの山を一緒に歩いたりもしました。
すごい熱で死体は全部灰になってるから安心しろボーイと
作業員にからかわれたことを思い出す。

その後の彼らのことはテレビの癖でだれも知らない。

でも昨日。
そのロマナコのレストランでたまたま食事をしました。
真新しい匂いのするその店は早い時間から満席でした。
あれから6年が経とうとしてる。
その間大変なことがあったでしょう。
観光客が激減した時期をどう乗り越えたんだろう。
その間ボクはなにをしたのか。
今の方が聞きたいことが多い。
あのとき彼はアジアのテレビ局のしがないボクに傷心のなか、
市場で魚を買うところを見せたのはなんだったのか。
なんでもいいから復活をアピールしたかったんだ。
したたかでずるいだけの人間ならシェフにはならない。

いわゆる高級店でしたが店員はみんな気さくで明るく 味もとてもよかった。
今日、日本に帰ります。帰りの飛行機は修学旅行で満席。

井川啓央
井川啓央
Theme
アーカイブ
SEO vol.99 コサカアキコ「あなた re-birth」

このラジオではたびたび話題に上がる、アーティストとファンの関係性のお話。 アーティストが活動を続けるにはファンの方々の存在は欠かせないものですが、長い目で見た、アーティストの時間的な成長は必ずしもすべてのファンの方に受け

N-32 具体的なことしてますか?

なっちゃんは昨年、様々な本を読むようになり、ヒトの話を聴く機会も増え、自分の中に知識、価値観が蓄積されてきたと感じています。 そんななっちゃんに、井川さんはまず具体的なことをやらなきゃいけないよと言います。 例えどんなに

SEO vol.98 斎藤哲夫「グッド・タイム・ミュージック」

1ヵ月に及ぶ中島みゆきさんの夜会も、気づけば中盤に差し掛かっています。 コンサートともお芝居とも違う、他のどこにもない「夜会」という形の公演を滞りなく上演するために公演期間よりもずっと長い時間をかけて準備をしてきた瀬尾さ

N-31 自分に厳しくしてますか?

助けてくれる人が周りにいるということは、一見、良いことのように思えます。 でも…!女子高生のなっちゃんや、なっちゃんの周りの友達、マメヒコで働くスタッフ・・・たくさんの女の子たちの姿を見てきて。長い目で見て、ちやほやされ

イカハゲ深夜便 vol.12

今週の井川さんのはなし ~30分 知りませんでしたがロスジェネ世代、ロスジェネ中年なんだそうです。 ロスジェネとは、「ロスト・ジェネレーション」の略で、失われた世代という意味なんだそうです。 この「ロスジェネ世代」にあて

SEO vol.97 中島みゆき「ヘッドライト・テールライト」

海外でのレコーディングがまだ珍しかった頃から アメリカやイギリスといった海外のミュージシャンと 仕事をしてきた瀬尾さん。 彼らと日本のミュージシャンの違いとは どんなところにあるのでしょうか? アーティストの活躍を下支え

N-30 未来を明るく描けますか?

もう2月ですが、今年最初の更新です。大変長らくお待たせいたしました。 お正月のお休みに、おばあちゃんが住む長崎に行ってきたなっちゃん。親戚のヒトたちに会い、美味しいものを食べ、お買い物に行き、のんびりと過ごしてきました。

SEO vol.96 中島みゆき「あした」

昨年から準備してきた、 中島みゆきさんの「夜会」。 いよいよ1ヵ月に渡る公演がスタートします。 20回目を迎える夜会ですが コンサートとは違う形の作品を 20回も発信し続けるには、熱量が必要です。 熱量を込めてやるって

短編小説 LESSISMORE 

Episode 1/ LESSISMORE小説「エトワール・ヨシノ」より はじめに   短編小説 LESSISMORE を公開します。「裸足の金星」のタイトルで書き始め、幾度となく書き直した短編小説です。   去年の春、