わが社の訓示

台湾から帰ってきたら、どっさり履歴書が届いてて
びっくりしてんの。
いやー、ほんとにね、なんだろうか。

ボクんとこの会社はテレビ番組制作会社で、
NHKの番組を作る仕事をおもにやっていて、
もののはずみで2年前にマメヒコを始めたの。
今回初めてその主たる家業のテレビ制作側の
スタッフを募集したのね。

そしたらさ。
全国から東大、早稲田、慶応卒なんかが殺到してね。
中には芝居と両立できそうなのでって、
よくわかんない動機の演劇人も何人かいるんだけど、
まっとにかく100名も応募がありやがんの。
よそのことは知らないから多いのか少ないのかは
わかんないんだけど、2、3人しか採らないのに
採用する側としては迷惑なほど多い。

それに比べてマメヒコ。
マメヒコは募集いくらかけてもほんと応募少ないの。そりゃ
マメヒコとNHKじゃ知名度が違いすぎるけどだけどさー。

マメヒコで働くのが夢なんです!!!ってヒトいてもよさそうなもんだけど。

マメヒコはいつだって人手が足りないにょ。
このままじゃ渋谷店はお店ができてもスタッフがいない。

このまんまじゃ、ボクが一人でいらっしゃいませって
言わなきゃなんないよ。
いいーの?ねー?ボクひとりなんだよ?ねっ、いいのいいのー!

60席もあるのに店員はボクしかいないんだよ。
とにかく、えらい待たせちゃうんだから。
老婆のかっことかして、
耳とか遠いフリして、目とか見えないフリしてんだからぁ。

珈琲って頼んでから出てくるまで、
2時間もかかるんだからぁ。
それでナニ頼んでも珈琲しか出さないんだから。
オムライスと珈琲って頼まれても、
珈琲と珈琲しか持ってかないんだから。
腰とか曲がってYシャツにアイス珈琲とか
平気でこぼしちゃって、
ばぁちゃんしっかりしなよっ、ばぁちゃん一人じゃこの店無理だよってきつく叱られちゃうんだから。

・・・なんばいいようとって、笑いながら泣くんだから。

テレビで働くことはとっても大変ですよ。
ADなんて家帰れないしね。
スタジオの近くで暮らしてるゾンビみたいなやつも
いるよ実際。
帰れよ家ーって言っても、無理っすって。
2年くらい帰らないやついっぱいいるんだから。
軽い徴兵だよ。
女の子だっていくらかっこいい彼氏いたってね、
絶対別れるよ。だって会えないんだから。

で、カフェで働くということも同じように
とても大変なことです。
帰れないんだ。やっぱり。
こんなこと書くとますます応募なくなりそうだけど、
ほんとだもの。
マメヒコを創るとはこういうことなのかと、
みんな夜討ち朝駆けで働いてる。

無論、色々とそのときそのときに求める、
マメG(マメヒコで働く女の子は自分たちのことを
こう呼んでんの)のタイプっていうのがあるから、
せっかく応募してくだすったのに、
採用をお断りすることももちろん多いんだけど。

実際、飲食業界の人手不足は深刻なんだと思う。
うちなんて生意気にも選ばせてもらってるだけ
幸せなのかもしれない。
どこのお店も募集!募集!の大合唱だもんね。

「えー、カフェもテレビもそんなに大変なんですかー?」って君に。

大変じゃないところもあるよきっと。
でもね、

いいものを創ろうと思ったら、
いい仕事をしたいと戦ってる人たちと働いたら、
それはなにかの犠牲のうえに成り立ってると思ってまず間違いないよ。

テレビなんて見てるのが一番。
カフェなんてお客としてくつろぐのが一番。
作家の倉本聰さんがこんなことを本に書かれてます。
許可もなく抜粋してしまうけど、

『たとえば泗々たる流れが一つ。
それを右岸より眺める者と、左岸より見る者、二つの部族が存在すると、とり敢えず思っていただきたい。
 右岸に立つものは批評家たちである。
 左岸に立つものは創る側である。
 流れには橋がなく行き来が出来ない。
 右岸に立つものが突然発心し、対岸に立つべく流れへ飛び込む。すると忽ち何の流れは彼の体を下流へ押し流し、ほうほうの態でたどりついた左岸は、彼の見た位置より甚だしく下流である。たやすく行きつけると思っていた対岸は、もはや見えない、はるかに離れている。
 見る現実とそこに立つことは極端な距離にはばまれているのだ。
 だから批評は、誰にだって出来る、けど現実には批評するだけさ。
 俺は川下でも左岸を行きたい。』

渋谷のマメヒコはボク一人でやらねばならないのかしら。

あっでも、そうだ。いいのがいた。

うん、ごほん、あっ、わたしが、あーえっとー、社長です。訓示ですか?あー、
えー、あー、うんとー、テレビのほうに応募してきた皆さま。
皆さまの初任地はですね、えー、あー渋谷の、NHK放送センター 近くのマメヒコというカフェ です。あまり深く考えず何事も前だけを見て、とにかく深く考えず、

深く考えずに邁進していただきたい。
深く考えない。それが和菓子屋のクッキー。
もとい、わが社の訓示にしたいと、今思いついた次第であります。

井川啓央
井川啓央
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