居心地の良い居場所の作り方

11月9日、池袋にある「みらい館大明」にてコルクラボ文化祭が行われました。この文化祭のトークイベントに、井川さんがゲストとして登場。佐渡島さんと、社会起業家の成澤俊輔さんと、「居心地の良い居場所の作り方」をテーマにお話ししました。

-「自分探し」から「居場所探し」へ。
 社会が大きく変化する中で、何が起きているのか。

今「居場所」について見直され、家庭でも会社でもないコミュニティの必要性が語られるようになってきました。「そもそも居場所とは何か」「居心地の良い場所はどのように作られていくか」と言った問いから、いま社会の中で起こっていることをどうとらえ、未来へ向けてどう変化していくのだろうか。居場所をつくり続けている3人の鼎談を聞きながら、一緒に考えてみませんか。

いきあたりばったりの人生

もともとはテレビの映像制作の会社をやってていた井川さん。一緒に働いていた女の子の「私ホントはカフェがやりたいんです」の一言でカフェを作ります。これが2005年の出来事。この女の子はカフェの完成を待たずして井川さんのもとを去り、他のカフェの店長さんになってしまうんですけど。

映像の仕事はカメラのフレームの中に世界を作るお仕事です。要はフレームの外はトリミングできます。でもカフェではトリミングなんてできません。そんなわけで、はじめのうち井川さんは色々なことにイライラしてしまいます。例えばスタッフの「いらっしゃいませ」の言い方なんかに。イラつきすぎてカフェオレを作っている途中にふっと網走まで行ってしまったことも。そんなこんなで色々あって、井川さんは、「思う通りにならないことが多すぎる」ということに気づきます。

一方の成澤さんですが、幼少期をアメリカ、その後小中高は日本で過ごします。そして大学に入学、数年間の引きこもり生活を経て7年かけて卒業します。その後も色々ありまして、「雇われるのは向いていない」と悟った成澤さんは独立します。

実は成澤さん、視覚に障害があります。例えば自動販売機で買い物をする時、どこに何の飲み物があるかわかりません。ですが、長年の経験から、自販機の上の段には水とお茶、右下にはお汁粉がある(場合が多い)、なんてことはちゃんとインプットされています。でも、「思う通りにならない」こともしばしば。例えば、一日の仕事を終え、「あ~疲れた。喉でも潤すか」と思った成澤さん。いつものようにカンで飲み物をゲットしようとして、自販機のボタンを押したら、何だかいつもと違う音。出てきたのは柿ピーでした。「柿ピーかよ〜〜」と思いつつ柿ピーを食べた成澤さんでした。

 

「えいやっ」の力

二人の話に共通していたのは、大きな失敗をすることで、これ以上底がないと思えるようになるということ。

例えば、井川さんには、たまたま出会った料理人のおじちゃんのためにとんかつ屋を作ったのに、肝心のおじちゃんが失踪してしまった、なんてことがありました。成澤さんのほうも、会社の何やかんやでやらかしてしまい、その責任を負うために道玄坂の喫茶店で土下座する、なんてことが。成澤さん、今でもそのお店のことは忘れられないそうです。

二人とも、大きな失敗によって、「ああもうこれ以下の底はないな」と感じたそうです。「あっでもその後、フツーにそれを下回ることが起こったりするんですけどね」と井川さん。成澤さん爆笑。二人ともそういう経験から、とりあえず「えいやっ」でやってみようという力が湧いてきたそうです。

一方の佐渡島さんは「えいやっ」の力が少し低めかもしれません。例えばこんなエピソードがあります。「今期は大胆に赤字覚悟で色々投資してみよう」と意気込んだ佐渡島さん。ただ、そうは言いつつ「大幅な赤字はちょっとなあ」ということが頭をよぎります。そんな佐渡島さんは毎日通帳をチェックしてしまい…。最終的には若干の黒字で終わったそうです。会場爆笑。このエピソードに対して爆笑しつつ「見つめる鍋は煮えない」と井川さん。

父性について

話題は「父性」に移ります。「最近の世の中は、母性が溢れているが、父性が足りてない」と井川さん。迷っている人に対して「どうしたの?」「どうしたいの?」と寄り添うのが母性、「いいからやって」とつきつけるのが父性。母性は一見優しげですが、最終決定は本人に委ねられています。悩める人にとって最終決定を委ねられるのはしんどいことかもしれません。一方の父性は、ちょっとぶっきらぼうにも思えますが、最終決定の責任を肩代わりしてくれるという優しさがあります。

例えば井川さんにはこんなエピソードがあります。ある春の日、「お花見に行きたいんだけどお店が忙しくて行けないのよねえ」とスタッフがぼやいていました。それに対して井川さんは、「よし、店閉めてお花見行くぞ」と鶴の一声。スタッフは「え、そんなのいいんですか? お客さんが来るかもしれないのに」と心配そう。井川さんは「いいから行くぞ」ときっぱり宣言。するとどうでしょう。はじめは渋っていたスタッフも、しばらくするとお花見のお弁当をおにぎりにするかサンドイッチにするか楽しそうに話しています。

すべてが自由で自分で決定できるというのは案外しんどいことです。ある程度父性による不自由さがありつつ、細部は自分で選べる、というのが意外といいのかもしれません。このエピソードでいうと、お店を閉めてお花見に行くか否かを決めるのは少ししんどい。でも、おにぎりかサンドイッチを選ぶのは楽しいということです。

父性についての話が続きます。今回の対談テーマは「居場所」ですが、「ただそこに居てくれるだけでいいよ」「無理しなくていいよ」と母性的に対応されるのは、初めは心地よさがありつつも、それだけでは段々と居心地が悪くなってしまうものです。父性によって何かしら役割を与えられ、それをやり遂げることでそこに居場所を感じられるということがある、と井川さんは言います。役割を与えてほしい、背中を押してほしい、という人が多くいるのです。

成澤さんにもこんなエピソードがあります。障害者の就業支援のお仕事をしている成澤さん。成澤さんの所に相談に来る方の中には、障害のせいか、小さな頃から「無理しなくていいよ」と言われて育ってきたという方が多いそう。ある日のこと、成澤さんは「今日は吐き気があるので就業体験に行けません」との連絡を受けます。でも成澤さんは「この人ならできる」とピンときたのでしょう。「いやいや、まだ実際に吐いたわけじゃないんだし、とりあえず行ってみよ? ホントのホントにダメそうだったらその時はどうすればいいか一緒に考えるから」と返しました。この対応をパワハラと感じる人もいるかもしれません。でも、今の世の中、こんなふうに「いいからやって」といって背中を押す父性が必要なのかもしれません。

・・・と、3人の人柄もよく伝わる充実の90分でした。
「え、井川さんと成澤さんて結構熱血オヤジ系なの?」と思われる方がいるかもしれません。でもあんまりそんな感じはしません。二人とも、「思う通りにならないことが多すぎる」という経験からか、どこか流れに身を任せるようなところを兼ね備えているからかもしれません。そんな二人(プラス佐渡島さん)の対談でした。

成澤さんが理事長を務めるNPO法人FDAでは就労困難者の雇用創造に取り組んでいます。詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

社会的弱者(引きこもり、ニート、うつ病)の社会復帰を目的に就労支援・トレーニングなどの活動をしているNPO法人FDAのホームページ

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