達人の話し

劇団街乗り自転舎。

6/3,4の初乗り公演『名曲喫茶山猫』に向けて
準備が大詰めを迎えています。
概ねみんな台詞が入り、
通し稽古で自分の動きを確認することが、
今のみんなの課題です。
そのなかで、ひときわ存在感を放っているのが、
マスター役の高本クンです。

彼とボクは小学生時代の同級生なんですが、
ボクは今までの人生を通して、
彼ほど豊かな人物をいまだ知りません。
本業が公認会計士である彼の、
台詞の解釈や役作りはおそろしく緻密です。
今回、彼は忙しい本業を縫っての参加のため、
ボクはできるだけ台詞を少なくしました。

もちろん彼は、人生でお芝居というものを経験したことが
ただの一度もないそうです。
テレビや映画といった映像作品は、
極端に言えばですけど、
台詞を話す顔と顔をつないでいけば
なんとかなるのですね。

A「ボクはキミが好きだ」

B「そう。嬉しいわ」

とABの顔を交互につなげば、なんとかなる。

ところが舞台ってさ、台詞のない人間も舞台にいるのね。
ボクね、そういうこと知らなかった。
知らないでいつもみたいに、
テレビシナリオを書いちゃったから大変。
読み合わせでは気づかなかったけれど、
通しで稽古をしてみると、
台詞こそ少ないけれど、全編を通して出ずっぱりなんです。
そう高本君。
無論、彼は「名曲喫茶山猫」のマスター役なのだから。
当然といえば当然です。
このことはむしろ台詞の多い人間より酷でした。
彼は常に台詞もないのに、
お客さんに見られているがために、
何かしてなくてはならない。
これに対し演出家であり、
作者でもあるボクの引き出しにはなんにもないんですね。
答えが。
あらら。って感じ。
さらに舞台そでがまったくない今回のセットでは、
どこにも隠れる場所もないんです。
一度出た役者は、よっぽどのことがない限り
下がれないのです。

で。とりあえずボクから彼に提案した演出プランは、
「とにかく全編、全台詞に対して、
何でもいいからリアクションし続けてください。見てて寂しいから」。
乱暴でしょ。どこが演出プランなのよぉぅ。
男はみんな狼で女はみんな仔羊、くらい乱暴だよ。

でも彼は。
考えた。考えちゃったんですね。緻密に。
彼なりの独特の解釈で、
本作品の全台詞にリアクションをつけちゃった。

たとえば、「大金持ちの娘」というフレーズがあれば、
彼は大きな家を両手で空いっぱいに描く。
「チャーハン」というフレーズが出てくれば、
中華なべを空いっぱいに振る。
あぁーこの表現の豊かさ。
ブログごときじゃ伝わらないだろうな。
まず、凡人では絶対に思いつかない、
いや思いついたとしても絶対にやらない、
秀逸ジェスチャーの数々を彼は次から次へと編み出し、
ひたすらリアクションしたのでした。

では、問題。
「こんな薄汚いわたしの娘で、あるはずがない」という台詞を、
彼はどういうジェスチャーで演技したでしょーか?
正解は、6/3,4のお芝居のなかで。

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