変われる黒い犬

戦前、台湾は日本に統治されていました・・・。

「フォルモサの黒い犬」というお芝居をやります。
「フォルモサ」とは台湾の古くからの呼び名で美しき麗しの島という意味です。
「黒い犬」とは、台湾に古くからいる台湾犬のこと。
日本でいうところの芝犬みたいなもんです。

舞台は戦後まもなくの台湾。

日本の長い統治が終わり、中国に返還された台湾。
大きく変わりゆく時代の中で、二人の台湾人と一人の日本人が
ともに明日を夢見て生きていくというストーリー。
二人の台湾人のうちのひとり、「李」をボクが演ります。

そしてもうひとり台湾でサトウキビを作る農家「張」という役を務めるのは
高本義也君という俳優さんです。
彼の本職は公認会計士です。

ゴールデンウィーク。
彼ら会計士の仕事はこの季節、
とてもいそがしんだそうで、
会社は休日返上の勤務体制。

だから彼は稽古になかなか参加できなかった。

ところがこっちもゴールデンウィークにある程度目処が立たないと、
あとは本番までまとまった時間が取れないのね。
今回のお芝居は一幕もので2時間もあるから。膨大な台詞がある。

馬鹿がつくほどの真面目さが長所の彼の唯一の欠点は
馬鹿がつくほどの真面目さです。

彼にダメをだすときは、ひとつずつ言うように気をつけなくてはいけません。

動きがもたもたしていてテンポが無く、台詞の間合いは早くて聞き取れないという場合。
「もっと早く動きつつ、台詞は次の台詞までゆっくりと間を持って」
という注文をだすと、動きも早けりゃ台詞も早くなる。
その逆もしかり。

GWに他の俳優が台詞を大方入れてきているのに(ボクは例外)、
仕事が忙しく台詞がまだ入ってないことに焦った彼は、
パニックに陥り、自己嫌悪に走り、稽古中も悪循環。
稽古後にやる気の無いようなことを彼が言ったので、
ボクも切れて、大雨の中、大口論になったのでした。

でも彼の持ち味、性分、というのをボクはわかってキャスティングし、
彼の役を書いたのですから、
彼が気持ちよくやれさえすれば絶対にいいものになる
という自信もまたあったんですね。

だから言いたいこと言いまくったにょ。

そしてこの週末。
久しぶりの全員稽古。今日からは実寸に合わせた
動き中心の稽古です。

高本君・・・。
どうなるのか心配だったけど。
とってもとても素晴らしかった。
どこがどうというのではなく、いやもうまったくの別人でした。

もう稽古をすればするほどうまくなる。
ダメをいくつ出してもそれが全部彼なりの判断で適確に直っていく。

ちょっと驚きました。感動さえしました。
マメヒコの面接なんかでも、
「自分はこういう人間だから、これはできるけどこれはできないんです」と、
平然と言うヒトがいますけど、
自分の可能性なんて恐らく自分が一番分かっていないという気がしますね。

彼はみんなからの遅れを取り戻そうと相当稽古したんだと思う。

そしてそれができるヒトです。そのことに感動したのでした。

素人芝居だけど、徐々に舞台らしく変わってきた『フォルモサの黒い犬』。

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