鼻が利くことについて

豆は足が早い。昔からそういう。

足が早いとは、俊足というような意味ではもちろんなくて、
すぐに「いたむ」、「腐る」よ、ということなんですね。

昨日、豆ケーキの大豆を提供しようと思ったスタッフが、
なにやらあやしい。
味見をしたら、「いたんで」いたので廃棄した。
そういう報告があった。

「いたむ」。
「いたむ」。
「いたむ」。

「いたむ」は「腐れる」とも違って、
なんとも言い難い、イヤーな風味、になることである。
今のヒトたちは(若い年寄りにかかわらず)、
この「いたむ」ということが感覚的にわからないらしく、
「いたむ」って言うけど、どんなことなんでしょうか。となる。

木登りすればどの枝が折れやすく、どの枝なら折れにくいか。
そういう感覚が、経験もないのでわからないのだと思う。
とにかく危ないものには近寄らないで育ってきている。
若いヒトでも年寄りでもあまり関係ない。

この時期。
大豆やあずき、インゲンなんかの豆を扱うマメヒコでは、
この「いたむ」に敏感でなくてはならない。
足の早さに敏感でなくてはならない。

豆が「いたむ」には条件があって、古くなったから「いたむ」んではない
豆を煮る。煮上がる。アンになる。できたアンは急いで冷ます。
急激に冷まさず、生温かい30℃から50℃くらいの状態が、
30分でも続けば、「いたむ」。
「いたむ」。
「いたむ」。

だから一気にその危険温度帯を通過しなくてはならない。
そのために急いで冷やさなくてはならない。
室温が低ければ、平たいバットに広げて冷ます。
暑ければ氷水に当てるなどして、
とにかく30℃以下にしなくてはならない。

その昔。
「いたみ」に対して温度による工夫ができなかった。
氷もなければ冷蔵庫もない。
そこで塩か砂糖の出番、なんである
大豆に塩をたっぷり入れて味噌にした。
小豆に砂糖をたっぷり入れてアンにした。
それぞれ防腐保存の役目があるから、
減塩だ微糖だのと中途半端なことはしない。
今はできない。
だからソルビン酸といった防腐剤が必要になってくる。
ソルビン酸は人体に害がない。そういうことになっている。
たとえ害だとしても、「いたむ」とか「腐る」よりはずっとましである。
だからたっぷり保存料を使う。

カフェと言えど、食べものを扱っていると言うことは、
人の命を脅かす危険があるということである。
危険に対して敏感過ぎて過ぎることはない。
自動車をはじめ機械メーカーや、医療関係、
鉄道や飛行機といった交通機関は危険に鈍感であれば、
すぐに大きなことになる。

数ある過去の事件が教訓となって、大変なことになるぞと
新人に徹底して恐怖心を植え付けている。

今回、マメヒコもちゃんと気付いてくれるスタッフがいたから未然に防げた。
けれど、もしスルーしていたら大変なことである。

ただ。

そういうことに敏感であるヒトたちだけを集めていく、
敏感であることを第一に掲げると、
また違った困ったことになっていく。
ムズカシイ。

普段はポヤンとしているけど、いざというときは「鼻が利く」というヒトがいい。
けれど、そうゆうヒトは極々まれである。

敏感すぎるヒトか、ずっとポヤンとしているヒトか。
敏感すぎる組織か、ずっとポヤンとしている組織か。
どうしても、その二択になってしまう。

「鼻が利く」ヒトを見つけたら、ほんとうに宝物だと思ってしまう。

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