「公園通り店のカレー」

大阪の淀屋橋にあるMJBという
喫茶店にたまたま入りました。
そこで、創業者の秋山悟堂さんを
書かれた雑誌記事が壁に掲示してあり、
それをたまたま読んでいたら、
はっとすることが書いてありました。

MJBがかつて
営業不振に陥ったときに、
MJBを売ってしまおうと
秋山さんは思った。
すると奥さんが、

「売るべきではないわ。変えるべきよ」
と言われたと。

それで秋山さんは考えて、
今までやってきた店の業態を変えて、
珈琲、紅茶、ミルク、
オレンジジュース、ケーキ、
ゆで卵、フルーツを
すべて五銭にして、
店の雰囲気は明るくモダンに、
音楽を流してムード喫茶にしたら、
それがうまくいった。
と言うようなことが
書いてあったんですね。

「経営者は常に最大限の努力をすべきだ。
しかし、努力してなお営業不振の時は、
時代の流れに逆行していると思うこと」

まぁ、そうだよなと思いました。
喫茶店はどうしたって、
時代の変化に敏感です。
ただなにより、街の変化に敏感です。

おんなじメニュー、
おんなじ値段でやっているのに、
三軒茶屋と渋谷のマメヒコでは、
客数、売上に大きな差があります。

それはもうここんとこの渋谷は、
とくにひどい。

でも、食事どころは、
それでもなんとか、
お客さんは入ってる。
実際、食べに行くところがなくて
困っているのは、
ボクらマメヒコのスタッフです。

それで、公園通りのマメヒコを、
カレーをメインで出す
お店にしようと思いました。
それでこの数週間、
試作を続けています。

と言っても、実際に作ったり
食べたりする試作ではなく、
頭の中で、カレー会議をする試作で、
実際には作りません。

その一人カレー会議をやるなかで、
「そもそもボクはカレーが好きなのかい?」
という問いに当たりました。

そしてよくよく考えてみると、
「そもそもカレーが好きじゃない」
という結論になりました。
これではとても困ります。
いまからカレーを
メインにやろうとしているのに、
カレーが好きじゃないなんて。

「でも、みんなはそのカレーが好きなわけでしょ、
だから、好きじゃないけど、
お客さんに合わせるのは商売なんだから、仕方ないよ」
と慰めながら試作を続けていたのです。

でも好きじゃないので、
なんか乗らないのです。
乗らないので、一向に進まない。
好きじゃないことはやれないのです。

「じゃあ、そもそもなんであなたはカレーが好きじゃないの?」
と、自分に問いかけてみた。
すると、甘くて脂っこいあの食後感が、
ボクはいやなんだとわかったんですね。

甘くて脂っこくて、
酸っぱいものはみんな好きです。
お寿司だって、牛丼だって、
ショートケーキだって、
その鉄則からは外れません。
いまや外食産業は、
甘くてすっぱくて脂っこい、
高カロリーの低価格が全盛です。

それは、やりたくない。
やらずに、食事を
求めているヒトには応えたい。

それで甘くもなく、脂っこくもない、
カレーを作ろうと決めました。

月に一度、ボクが野菜料理を作って、
お客さんにふるまう、
「ハタケの食事会」というのを
やって久しんですが、
そこでは、甘くもなく、脂っこくもない、
名もない料理を作ることが多い。
素材そのものの味を活かした、
滋味で地味な料理ですが、
それを盛り付けるときは、
はっとするような、斬新で
華やかなものにしたいと思っています。

それをカレーでやろうと思いました。
甘くもなく、脂っこくもない、
滋味で地味な、
けれどはっとするような、
斬新で華やかなカレーを作ったらどうかと。
それを1000円以下でも
食べられるようにしたらどうかと。

なんとかできたよ。
野菜と豆中心で、スパイスの香り立つ、
甘くもなく、脂っこくもなく、
滋味で地味な、
けれどはっとするような、
斬新で華やかなカレーが。

ボクのやりたいことが、
時代の流れに寄り添っていると
いいなと思います。

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