理想を口にすることに


みなとみらい駅にある詩。

樹木は育成することのない
無数の芽を生み、
根をはり、枝や葉を拡げて
個体と種の保存にはあまりあるほどの
養分を吸収する。
樹木は、この溢れんばかりの過剰を
使うことも、享受することもなく自然に還すが
動物はこの溢れる養分を、自由で
嬉々としたみずからの運動に使用する。
このように自然は、その初源からの生命の
無限の展開にむけての秩序を奏でている。
物質としての束縛を少しずつ断ちきり、
やがて自らの姿を自由に変えていくのである。

フリードリヒ・フォン・シラー

いつも行く度にこの詩を読む。
そしてその度、この詩が意図することと大きく矛盾している、
この商業スペースに、誰が、なぜ、
この巨大なオブジェを組み込もうとしたのか。

企画者の意図は、一体どこにあったんだろうか。
そしてこのズレをどう見てるんだろう。

と思う。

ヒトは、現実の前で平然と理想を口にする。
そして安心する。

安心したことで、
理想と大きく離れた行動をとっていても平気でいられるらしい。

それは恐ろしいことです。

あなたは理想を口にすることで、安心してやしないか。
当たり障りのない、正論を口にすることで、
まったく真逆な行動をとってやしないか。
理想と違うことをしている弁明に、
正論を利用してやしないか。

エスカレーターに乗りながら、
このオブジェを読むたびに、
憂鬱な気持ちになる。

ボクは理想を口にすることに対して、
慎重にならなくてはいけないと思う。


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