今週の井川さんのはなし ~45分

2019年第1回目は瀬戸内海からお送りします。 尾道から生口島、そして怒和島を歩く「檸檬の島 遠足」に来ています。愛媛県の瀬戸内海側に忽那諸島があり、その西部に位置する小さなみかんの採れる島が怒和島です。成人式の今日はそこから梅田君と対談です。
子供の頃の理想と大人の現実が工作し、挫折を味わうのがヒトです。
それでも、いくつになっても自分の道を模索するのが人生です。

成人式は故郷に帰らずに、式にも参加せずに、友達と渋谷のバーゲンに行ってたあの日のあなたの気持ちを今、振り返っています。

渋谷で買いたい物は特に無かったけれど、成人式にも特別な思い入れが無かったんですよね。
お正月にレンタルの振袖を着て写真だけは撮っておいたし、その式を境になりたい理想の大人になれるわけではないしと、あの時のあなたはそう思っていた。

今にして思えばそれだけではなくて、そのまま惰性で大人になってしまうことが嫌で、あなたは背を向けたかった。
自分が同じところで足踏みを踏んでいるのに、時間ばかりが過ぎていくことに。
なのに望まない方向に身体が向いていることに対する苛立ちや焦りに。
やりたいことを本気で追求出来ないままに、ただ大人としての責任ばかりがのしかかる未来から逃げたかったというのが、おそらくあなたの本心でしょう。
全然大人じゃないのに、無理やり形式だけ大人にさせられるような圧迫感を感じていたんですよね。

渋谷のバーゲンで友達が嬉々としてスカーフを選んでいる店の外では、振袖やスーツ姿の希望に満ちた若者達が通り過ぎて行く。
その光景を横目に見ながら、彼らの眩しさを羨ましく思っていましたね。

その前日まであなたは数日間篭って、卒論を書いていました。
卒論のテーマは「芸術について」。
短大に通っていた2年目に専攻した芸術学の授業があの頃のあなたにはあまりに面白くて、毎週金曜日の一限目が待ち遠しかった。
教科書はなく、黒板にも一切何も書かない先生の言葉を絶対に聞き漏らすまいとペンを握り締め、ノートにはいつでも書き込めるようにとペン先をノートにぴたりと這わせた状態で、全身を耳にして先生の言葉を待っていましたね。
もう一度あの瞬間に戻れるなら、私もかつてのあなたの隣りで同じ授業をあの先生から受けたいと思います。

肝心の芸術について書いた卒論は、卒論と呼ぶにはあまりに乱暴でまとまりもなく、ただただ若さほとばしるままに想いの丈を50枚も書き殴って、あなたは燃え尽きていました。
宿題を終えた解放感を味わう一方で、自分が書いた内容と、現実の自分が乖離していて、在りたい理想の世界に手が届かないことに言いようもない哀しみを感じていましたね。
でもそんなモヤモヤした気持ちは上手く表現出来ず胸に押し込めたまま、成人式のあの日だって、渋谷で友達と楽しげにアイスクリームを食べてたんですよね。

あれから30年という年月が過ぎました。
その間、就職して自活しながら、このままではいけないと、一度全てを清算して24歳でかつてのあなたの願いを決行したこともありました。
ままならないことが人をたくましくすることも知りました。
誰も振り向かず報われないと思えることからをも、糧を得ようとする貪欲さも学習しました。
かけがえのない出会いもありました。
思いがけない優しさに触れ、手を合わせたくなるようなこともたくさんありました。
現状が行き詰まる時こそ、内側に潜在する可能性を開くチャンスなのだと受け止められるようにもなりました。
だからあの時のあなたよりは少しだけ強く、賢くなったつもりではいます。

それでもあの時のあなたの情熱や純粋さには今の私から敬意を送りたい。
これからも常に二十歳の頃のあなたを私の前に置いて問いかけることを忘れてはいけないと思っています。

私達は互いにもう一人ではありません。
かつてのあなたには経験を積んで少しだけ強く賢くなった今の私がついています。
だから今の私にも、若さ溢れるかつてのあなたの熱と力を貸してください。

そしてこれからは他の誰でもない私達の人生を、今の私達だからこそ出来る最も相応しい在り方で、何度巡ってもこれで良かったと思えるような人生を共に築き、祝福していきましょう。

二十歳のイカハゲネームさとみさんへ。

まずはお礼を言わせてください。二十歳のあなたはお便りのネタの宝庫です。ありがとうございます。例の先輩にフラられたことも、妹の彼氏との微妙なやり取りも、お便りのネタとして使わせてもらっています。本当にありがとうございます。

地元を出て仙台の大学に入ったあなたは、色々なことを経験します。先輩にフラれたり、周りの同級生の凄さに圧倒されたり、バイト先の店長に怒られたり。そろそろ、「頑張っても報われないこともあるんだなあ」なんてやさぐれかけている頃かもしれません。そうですね。頑張っても報われないことは、残念ながらあります。でも、それはやさぐれる理由にはならないと思います。

「そんなの言われなくてもわかってるよ!」とあなたに言われそうですね。

ごめんなさい。二十歳のあなたはちゃんとわかっていますよね。だからこそ、報われないことを恐れずに、いや、恐れていたとしてもそれを乗り越えて、色々なことをやってきたんだと思います。それって、イケてるし、面白いし、最高です。そういう二十歳のあなたのことを、今、私はお便りという形にして残そうとしています。

こんなこと言うと、「エラそーに言っちゃって。そういうアンタはどうなのよ?」なんて言われちゃいそうですね。

うーん。まあまあボチボチ頑張ってるよ。こっちも色々あるのよ。やさぐれたくなるようなことも、全然あるよ。でも、なんだか毎日面白いですよ。

井川さんの一枚

怒和島から見た海の景色です。本当にいい天気で、暖かく、穏やかな海でした。

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ちなみに月曜深夜の生放送では、当日の夜に井川さんがフラっと「イカハゲ本堂」に表れてその日のお題を投げるので、オンエアまでの数時間でお便りをチャットに投稿することになっています。フォームで送る必要はないので、お気軽にご参加ください。いつもイカハゲ深夜便生放送お聴きいただき、ありがとうございます。

よろしくお願いします!

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