バカバカしくて哀しい

明日、明後日とエトワール★ヨシノのステージがあります。ボクがシャンソン歌手のおばあさんに扮して歌うステージです。瓢箪から駒といいましょうか、ひょんなことからエトワール★ヨシノを演じ続けています。

ステージはヨシノさんのひとり語りと、歌で綴られます。

意外に思われる方がいますが、ステージはすべて一字一句まで決まっている台本があります。そして台本をステージでプロンプターで表示しながら進めます。

その台本の一部をここで紹介しましょう。

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わたくしは40年近く、シャンソン喫茶をやってまいりました。
まぁ昨年惜しまれつつ閉店したんですがね。
その間、ほんとにいろいろなことがありました。
もう20年も昔のことです。うちの店の並びに小料理屋「おミヨ」という店がありましたの。まぁ、それはそれは、おきれいな方がね、学習院女子大のフランス文学を出たとかで、小料理屋の前はCAをやっていたんだそうです。

そんなおミヨさんですから、お店はとっても流行っておりました。

彼女の誕生日なんかになりますと、外までプレゼント持った男たちが並ぶんですよ。いっぱしの企業の重役クラスがですよ。
私はそれをオミヨ参りと呼んでました。
彼女はその美貌と言うだけじゃなくて、すごいんですよ努力が。

お料理はもとより、お花を習ったり、お茶道やったり、株とか為替とか先物取引まで勉強してました。
ある事件が起きたのは、ある春の日のことです。

「おミヨ」の看板料理に『マタタビ コロッケ』というのがありました。
これはね、おミヨさんが日々男を研究して編み出した、男なら絶対に昇天するというコロッケなの。
なんでも、おミヨさんのフェロモンが入ってるんだって。

でね。そのコロッケに目のない常連の代議士が黒塗りで国会中に好物のコロッケを公用車で食べに来てたんです。
通称、シャガレ。
まぁ、のどかな時代でした。
ところがある日、たまたま切らしてたんですね。フェロコロを。

そしたら、そのシャガレ、怒った怒った。

『おいお前、オレはよ、総理との打ち合わせすっぽかして国会議事堂からハイヤー飛ばしてきたんだよ。それがなんなんだ、コロッケありません、それで済むと思ってんのか』。

そう怒鳴り散らして、帰ったそうです。
オミヨさんは唇をかんだ。
ねえ。そして、それ以来、パッタリとシャガレはお店に来なくなった。

ゴシップ好きの電気屋と酒屋が、おミヨさんは、国会まで謝りに行くんじゃないかとか、そのうち証人喚問に呼ばれるんじゃないかとか、馬鹿な噂をしてました。

私はある朝、子豚と散歩してましたら、
ばったりおミヨさんに道端で会ったんです。
あ。私は子豚を飼ってましたのね。ピグちゃんていう名前のね。

まぁ、そのはなしはいいとして、でおミさん、私にこう言った。

『ヨシノちゃん。
あたしはなんて馬鹿なことをしたんだろ。
たった一個のコロッケを切らしたばっかりに、一番の上得意を失ってしまったんだから』

そういって、私の前で泣くんです。私とピグちゃんは、そんなおミヨさんをぽかんと見てましたよ。それでね、とにかく思ったこと言いました。

『ねー、おミヨさん。
予約されてたものを忘れてたというならわかるけどね、
突然思いつきで来るお客さんのすべてを用意しておくなんてでき無いんじゃなーい』

そしたらおミヨさん、

『お客様の要求に、いつでも、100%答え続けるのがプロというものです』

私とピグちゃんに冷たい視線を落としました。あれから彼女はコロッケを二度と切らさず、来る日も来る日も、せっせとシャガレのことを待ったそうです。
そしたら、数カ月ぶりに、ひよっこり来たシャガレ。

おミヨさん、あら、いらっしゃい、と何食わぬ顔して言ったそうです
負けず嫌いの女よね。

『先日は失礼しました。今日は存分にコロッケはございますから、
たっぷりと召し上がってくださいね』

シャガレはドスンとカウンターに座るなり、
『最近、コレステロール値が高くてよ、揚げ物は控えるように医者に言われてるんだ。またたび冷奴くれ』そういった。
男なら誰でも虜になるというまたたび冷奴。これもおミヨの看板メニューです。
ところがですよ、間が悪いとはこのことでね。
そのときに限って、豆腐を切らしてた。
傍らで、電気屋も水道屋も、お構いなしに、またたび冷奴で酒を飲んでる。
おミヨさん、唇から血が出るくらい強く噛んで、売り切れです。と告げたそうです。

(以下続く)

そんな歌を作りました。コロッケの呪い。聞いてください。

 

■ コロッケの呪い

ダメよあなた 何を食べたいの
コロッケを頼むなら 頼むと言って
ダメよあなた 何を食べたいの
突然来てあれこれ 言われても
芋を茹でて 皮むき
ひき肉と混ぜて味付け丸め
卵といて 衣つけて

ダメよあなた 何を食べたいの
豆腐を頼むなら 頼むと言って
ネギをきざみ 細かく
たれと混ぜてからめ
生姜そえて 大葉しいて
ごまをすってかけて

ダメよあなた コロッケを頼んで
いつでも揚げられる ようにしてたの
揚げずにあるコロッケ
食べずに捨てるわ
捨てるの 捨てた日々を
あなたわかる?
わからないわ 気持ちわからないの
店を閉めた コロッケの呪い

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こんなステージをやっています。ステージは、ほぼ台本通り進みます。

それでも毎度、大きく印象が変わる。それはボクがエトワール★ヨシノのステージを半分はお客さんに委ねてしまっているからだと思います。

そういう舞台がボクの好みだし、素敵だと思う。そのために気をつけていること。それはですね。

どうだ、すごいだろ、という感じを微塵も出してはダメ。ひけらかしをやりますと、お客さんは察して引いてしまうんです。(最後の最後、どうです、すごいでしょ、っていうのは必要なんですがね)

これはマメヒコ学校でボクが学んだ、大事な人心掌握の秘訣です。

明日もやるエトワール★ヨシノのステージですが、お客さんは、ヨシノを見に来てくださってるわけではないのです。「ヨシノを演じている井川さん(苦笑)」を見に来てくださってる。

苦笑。も含めてステージなんです。

アイドルやカリスマ・アーティスト、ビジネスアートとは全然立ち位置が違うってるんですね。もちろんボクも人の子ですから。舞台直前は良いものをお見せしたい、なんて気負うことが無いと言えば嘘になる。でもいざ舞台に立ちますでしょ。するとね、

「あらあら井川さん、メイクしてかつらつけて、ヨシノを演じて。はいはい、今宵もご苦労さまでござんすね」という空気が、ぼわっとボクに届いちゃう。

そうしますと、なんか張り詰めた緊張が溶けます。こっちもなんとなく緊張がゆるっとなったところで、ヨシノを始めます。

それで台本通りにヨシノを演じるんです。するとね全編にバカバカしさが漂う。そして全部終わるとその、なんとなくモノ哀しさ、エモさがにじみ出るんですね。

そういうものがボクは好きだし、創ろうと思っているのです。

 

 

まだお席あるそうです。好みかもという方は、ikawa-y@mamehico.comにご連絡ください。

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