マメヒコの井川とクルミドコーヒー、
胡桃堂喫茶店の
店主影山知明さんとの対談です。

(影山知明)
井川さんはぼくの人生を2008年~
あらぬ方向へと導いてくれた
張本人であります。

以来、井川さんとはよく会い、
よく話をしてきました。
一緒に話をした時間を集計するアプリでも
あったなら
ぼくの人生においては井川さんがダントツの1位。
その長さはもちろんですが
その中身の濃さ、気付きの多さ。
それは、井川さんが、自分とはまったく違う
タイプだからということも
大きく作用していると思います。
ゆえ、今の自分の大きな部分は
こうした井川さんとの関わりによって
できていると言って、過言ではありません。

マメクル2020 #24/わかんない気持ち

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「いまのボクの、率直な気持ちとしては、この店を閉めたいと思うんだ。
うん。ずっと考えていることだよ。
そこで、ここに集まった、ともに店を続けてくれたみんなの意見も聞かせてほしい。

このまま、お店を続けていくべきかね。
それとも潔く、閉めるべきかね」

閉店後の細いライトの下で、沈黙したまま知った顔はみなうつむいている。

「実際問題として、いまのまま店を継続していくのは厳しいものがある。
もっとスタッフを減らしていくしか無いとも思う。
もっともっとハードに働いてもらうしか無い気もする。
給与もさらに下げることになりそうだ。

それでも。
それでもだな。

ボクとともに続けてたい、そんな気持ちがあるなら。
そういうヒトがいてくれるなら、
ボクは続けようと思うが、みんなどうだろう。

ボクと一緒に続けてくれるヒトはいるかな?」

沈黙は続いたままである。
誰ひとり、ものおとを立てまいとしている。
ときどき製氷機の砕けた音が店内に響きドキリとした。
呼吸さえ止めているのではないか。
その静けさが、すべての答えだとボクは悟った。

「わかった。ありがとう。それが答えだな。
うん。そうか。
うん、わかった。いままでありがとう。
よくここまで頑張ってくれた」

ひとしきり店員をねぎらったが、空気は変わらなかった。
そのとき、女性店員が白い顔を上げ、ボクの方を見た。

「あの」

彼女は、顔を上げボクの目をちらっと見ると、すぐさまうつむいてしまった。

「なに?」

沈黙を時折混ぜながら、絞り出すように彼女は意見を言った。

「わたしみたいなのが、やりたい、と言ったところでその、
なんの意味もないんでしょうけど。
やっぱり、閉めてしまうのは、なんていうか、もったいないっていうか。
もったいないっていうのとも違うか。なんだろ」

それきりだった。
そのあと彼女は黙ったままだった。そしてあとに続くものもいなかった。
会は煮えきらぬまま解散となり、出席した店員たちは何事もなかった顔をして、
めいめい店を出てった。

外からは、他愛のない会話が聞こえた。
思っていたとおり、潮時だったのだ。
これで踏ん切りがついた、店を閉めよう。
決断は間違っていなかったのだ。みんな無理をしながら、続けてくれていたのだ。
安い給料で過酷な仕事を続けていく理由などそもそもなかったのかもしれない。
惰性でここにいただけなのだ。

そう思ったら、気持ちが晴れていく、けれど同時に涙がこぼれた。
もっとみんな、この店を愛してくれていると勘違いしていた自分が情けなかった。
何年も続けた、小さな店の灯りが、時代の波に飲まれ消え失せる。

頑張って続けてきた店だ。
閉めるかもとなれば、口々にその継続の可能性を議論したり、
模索したりするのではないかと、
そんな淡い期待を寄せていた自分が情けなかった。

それからボクは、さっさと手続きをし、事務的に店を閉めた。
閉店の日は、賑わいの中で誰しも泣いていた。
店員も長年通ってくれたお客もみな泣いていた。
華やかな花がいっぱい飾られた店内に、
ボクはいたくなかった。

残念ですという言葉を聞くと腹ただしいのだ。
何をいまさらと、白けた怒りが収まらなかった。