プリンの瓶は知っているについて

プリン屋さん、マーロウって知ってますか?

最近は銀座とか三茶なんかにもできたりしてるけど、
もとは葉山にある レストランでね。
ガラス瓶のプリンで有名になった店です。

瓶にプリントしてある男。
レイモンド・チャンドラー の探偵ハードボイルド小説の主人公、
フィリップ・マーロウ、その男です。
その「マーロウ」にですね。

「タフでなければ生きていけねーぞ」って台詞があるんです。

たしかに。
強くないと生きていけませんわねー。
人間とて野生動物と一緒で、弱肉強食の 競争社会の中で生きてるんだからねぇ。
細かいことにクヨクヨしていたら生きていけない。
そんなこと改めて言うことでもないんですが。。。

とくに今はさ、世知辛いでしょ。
ヒトを蹴落としてなんぼ、そういうヒトも多いからね。

けど、マーロウ。
その言葉のあとにこう続けます。

「優しくなければ生きている価値がない」と。

おっ、さすが、マーロウ。

「クヨクヨしねぇ人生なんてのは、生きている価値がないのよ」
とつぶやくんだねぇ。

しょっちゅうクヨクヨしてこそ、
君、生きる価値なのだと励ましてくれるのです。

はて。
これどういう意味なんだろうか。
瓶のプリンを食べながら、ボクなりに考えてみました。

思い返すに、クヨクヨするときっていうのはその、
予測と結果が違うときですね。

余計な回り道してしまったときにクヨクヨするんじゃないですか。
あーー、しまった。
タイムイズマネー。
ああすればよかった、後悔しても後の祭りです。

そんでもってトボトボと足元の悪い道を歩く。

ぬかるんでいたりするんだけど、歩いているとね。
その道が断然、高速道路より良いのです。
気の合う友達に出会えたり、美味しいプリン屋さんを発見したり。
何気ない公園の斜光が胸に迫ってきたり。

目的地になんなく到着してたら経験できない思いがいっぱいできる。

まっすぐ高速を飛ばして来たヒトも、
もちろん大変な努力をしてるでしょうね。
悲喜こもごもの無いヒトなんかいませんから、
ドッチが楽とかそんなこと言う気はありませんよ。

けどね。
なんていうか微妙な感情を味わう時間、
時間があまりないんじゃないかしら。

最短、最速で進む道は、人間の持ってる微妙な感情の味わいを、
知らぬまま来てしまったりするんじゃないかしら。
他人の感情なんてものに関わってるのは時間の無駄だからね。法が
計算できることにリソースを割いたほうがいい。

「だいたいさ、他人の気持ちなんて、知ったような気がしてるだけで、
実のところ知りようがないんだ、所詮他人なんだもの」

そんな風に考えたら、他人の気持ちを推し量るなんて無駄だしか無いですね。

だけど、フィリップ・マーロウは言うんですよ。

「タフでなければ生きていけない、
けれど優しくなければ生きている価値がない」

他人の微妙な感情に触れる、それこそが生きる価値のひとつなのだぞ、
とハードボイルドな探偵は言うのです。

うーん、あのプリン屋さんは、
そういうマーロウの哲学を知った上で、
マーロウを瓶に採用したのかしらね。
だとしたら、なかなか深い味わいですなー。
誰かその真意を店員さんに聞いてみてください。

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