「ただそれだけのこと」

もっと綺麗な街になったらいいと思う。

もっと街路樹は大きく育てる。
紅葉して落ちた葉は、
散歩を楽しめるように
しばらくは掃かない。

家と家の塀なんか、
なるべく取っ払って、
自分ちの庭と隣の庭が
どこかで続いている。
道路と歩道の間は緑があって、
ガードレールは置かない。
舗装もほどほどにして、
境界線は曖昧に。

バカみたいにマンション
ばっかり建てない。
古い家を直してみんなで
住めるようにすればいい。

もっと他人のことはほっとけばいい。
とにかく干渉しない。
あんまり細かいことを、
ごちゃごちゃ言いなさんな。
お互い様、大抵のことは聞き流す。
ただいつもニコニコして、
いつも鼻歌を歌って、
冗談かほんとか
わからないことを言う。

それでもごちゃごちゃ
言いたいヒトはいる。
そういうヒトたちは
ゴシップグループを作って、
世の中のすべて、
一から十まで文句を言いあえばいい。
それも昔からある娯楽の一つ。
それはそれで楽しそうだが、
ボクは参加しない。

親は子供を自分の
はけ口として使いなさんな。
子供は子供、
親の持ち物ではないのだよ。
子供たちよ、
あんまり親を恨みなさんな、
立派に見える親だって、
不器用に生きているのだ。
妻も夫もそれぞれの生き方がある。
願うのは自由だが、
簡単に永遠など誓ったりするな。
永遠など誓ったところで、
叶うものではない。
だからこそ一瞬が美しいのだ。
明日のことはもうわからない。

もっと自然や季節に
即したものを食べたらいい。
季節がないなんて、
句読点のない小説のようなものだ。
ビートのない
ミュージックのようなものだ。

レンコンと蕪をさっと昆布と煮る。
その上からシラスと
おろしをかけ混ぜて食べる。
そんな名もない料理を、ささっと作る。

いただく時は黙って食べない。
金木犀がどこどこで咲いていた、
空がこんなに高いなんて、
今夜は冷えそうだ。
そういうはなしはできないものか。
他人の話し、金の話しはしない。

もっと綺麗な色の服を着ればいいのに。
着心地のいい空のような青いセーター、
柔らかいミモザのようなシャツ。
女の子なら自分の肌の色に似合う服を、
好きに着ればいい。
ゴシキノジコや
ムジルリツグミを真似ればいい。
素敵な鳥たちだ。
宝石カナブンやモルフォ蝶は
そのままブローチになる。
そう、街はカラフルライフだ。

もっと森に出かけていけばいい。
森には動物がいる、
狩りに出かけてよう。
森にはキノコが生えている。
木の実が落ちている。
食べられるかどうか、
失敗しながら歩いていくのは、
生きていることと同じだ。

もっと海に出かけていけばいいのに。
海には魚が泳いでいるから、
釣りに出かけよう。
海には海藻が生えている。
貝やカニが岩場に潜んでいる。
食べられるかどうか、
失敗しながら泳いでいく。
それは輝いている。

冒険は怖いというあなた。
ハタケは狩猟より
堅実だから安心していい。
ならばハタケを身近に作りなさい。
土を耕す。
作っておいた堆肥を施す。
畝間を決めて、畝を切る。
株間を決めて種を撒く。

小さな狭い土地に、
色々と工夫して植えるのは楽しい。
ネギを植えて、ナスを植えて、
キュウリを植えて、芋を植えて、
キャベツか白菜を植えて、
そして豆も。
ハタケが食彩に見える。
寒いとこは林檎、
暑いとこはみかんを植えるといい。
木にたわわに実が成ると幸福が訪れる。

もっとなんでも
自分でやってみなはれ。
カラフルに彩れば自分がわかる。
1cm物を動かすことが、
どれだけ面倒なことがわかる。

動かさなければわからない。
どれだけの重さなのかわからない。
独りで持てるものなのか、
二人で持てるものなのか。
分からないヒトは、
あれしろこれと指図してしまう。
指図してることに気づかない。
親切で言っているつもり。
自分というものが、見えないでいる。
自分が見えないから、ルールが増える。
ルールは白黒を決めてしまう。

先生は子供を見ないでルールで忙しい。
医者も患者を見ないでルールで忙しい。
裁判官と弁護士と警察官も忙しい。
ルールはどんどん細かくなるので、
税務署も役人も忙しくなる。
信号機を作る会社は儲かって
笑いが止まらないが、
作りすぎてることに気づかない。

好きに自由に生きる。
美しく、カラフルに暮らす。
そういう暮らしを心がけている。
ただそれだけのことが、
なかなか叶わない。

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