工業化をすすめ農村を解体する中で、
根無し草になったプロレタリアートは、アトム化し、大衆となった。
大衆はつながりを失い孤独になったが、
その受け皿となる「神、信仰」も消えてしまっていた。
そして心の安定を代用宗教にもとめるようになったんだね。
【信仰の代替イデオロギー】
信仰に代わるイデオロギーが必要となった。
それが「近代的な考え方」であり、
それは信仰に変わって大衆の中に浸透していくことになるよ。
たとえば、
★科学絶対主義
人間が自然に持っている秩序ではなく、
すべて科学が絶対的に正しいという考え。
★近代合理主義
機械化による社会は、合理的な思考を良しとする。
★サン・シモン主義
すべての産業人が社会を形成していくべきであり、
王様や貴族、僧侶や軍人、官僚はいらないという考え。
さらに社会において、物、人、お金が動くことが大事であるという考えから、
お金が動く場所である銀行
物と人が動く機能である鉄道
物と人が結びつき新しい何かをつくりだす株式会社
これら3つのものが社会変革の原動力だと唱え、
とりわけ株式会社が最も大事である、としている。
★原子国家論
国家はひとりの人間が集合してできているという考え。
★個人主義
個人の生命・自由・財産の保障がなによりも最優先されるべきという考え。
【近代的な考えを持つ大衆の特徴】
こうした近代イデオロギーが浸透した大衆は、
孤独の末、次のような特徴を持つとレプケは指摘している。
◯計測できないもの、目に見えないものは信じない。
◯ 頭の中だけで考えようとする。
◯ 型に当てはめたがる。もしくは型にはまらないものを無視する。
◯ 神や自然への畏怖や謙虚さを失ってしまう。
◯ ものごとを単純化して捉えようとする。
◯ 新しいものが好きで、古いものを嫌う。
◯ 規律を守る人間こそが神に代わる絶対的な基準であると考えているた
め、組織的なもの、規範を重視する。
◯ 伝統的な考えを軽視、または無視する。
◯ 直感や確信といった人間が持っている力を侮る。
◯ 本来、自然的に備わっているであろう身体性が低下する。
◯ 革命といった破壊的な衝動を喜ぶ。
◯ 本質に対する見識に対して鈍くなる。
◯ ユニークな独自性を持っている人物が少なくなる。
◯ 機械的なものをありがたがる。
◯ 「微妙なもの」、「ニュアンスを含む質的なもの」は厳密ではないと排除したがる。
時代と国は違えど、いまも当てはまることが多いよね。
こうした代替信仰は、孤独を埋め合わせるためには一定の効果はある。
けれど、真の意味での共同体を持ち得ていないから、孤独はなくならない、
とレプケはしているよ。
そうして、次第に文化的価値が侵食された孤独者たちは、
全体主義、共産主義に惹かれるようになる。
そして「真の精神的指導を行なえないような人間が、
国家や文化ならびに社会を支配する」、つまり独裁主義が生まれたんだ。
具体的には普通の人が一番偉いんだという「凡人崇拝」を掲げる
マルクス派の共産主義、そしてナチズムが起こったというわけだね。