人民は弱し、官吏は強し

先だって、「面白可笑ひこ」というお店のイベントでやった、星新一の「生活維持省」がとても良かった。

どんな話かというと、架空の時代・国で、そこには自殺も争いごともなく、みんな健康で長生き、とてもハッピーな社会。ところが、生活を維持する 「生活維持省」が、ヒトを間引くために、無作為に、定期的にヒトを殺していく。その殺す側のヒトたちが、無作為にヒトを殺すことに対して複雑な思いを持っているというようなSF。

星新一さんのお父さんは製薬会社を設立したヒトで、星さんもその会社の社長を務めていた経験がある。

お父さんの人生を綴った、「人民は弱し、官史は強し」という本を読むと、なるほど、星新一は単にSF作家ではないんだということがよくわかる。

お父さんは人民を思って、良い薬を作ろうと頑張った結果、官僚たちに睨まれ、清廉潔白なやり方をよく思わない役人から、恨みや反感を買う。政府に頼まれて、モルヒネを作るためにアヘンを輸入したにも関わらず、その罪で追われ、結果的には星製薬は解散させられた。その尻拭いを若干24歳の星新一もさせられ、最終的には乗っ取られちゃった、という悲喜交々を書いた本なんだよね。

人民は弱し、官史は強しというのは、善人とて所詮人民というのは弱く、悪行に手を染めてた官吏、国家は強いということ。国家のやるとことは今も昔も変わらない。

星新一は、お父さんの半生、自身の経験から、SFの世界に身を置いて、その中で表現する。作家として、炭坑のカナリアとして予言をしている。それは生半可な気持ちでやっているわけではないよね。

みんなが望む美しい世界は多くの管理の元、間引きも行われ、その結果こうなったんだと。人民は弱いものだけど、それでもヒトはその中で、どう、したたかに生きていくのかということを自身のしたたかに生きた人生を通して、ショートショートという形でみんなに問うてる。

非常にシニカルなメッセージが「生活維持省」には含まれているよね。ユーモアを忘れずに、したたかに人民よ生きていけと。

どっちが弱いのかというと、ルールに縛られた官吏の方が実は弱いんじゃないかという星新一自身が感じている、そんなメッセージをボクは受け止めたけど、みなさんはどうお考えになられるでしょうか?

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