多摩川の空は埃っぽい青。
ホームから見える246は白っぽくかすんでる。
まだピリリと冷たかったり、時折くすぐったく温かかったり。
きっとどっかの街はまだ冬で、
どっかの街はもう春なんだ。
風が、かぜで、カゼで、風邪で、
天気予報はガセだけど。
大きな空気の塊が、あっちの街から、こっちの街に、
冬から春へ、春から冬へバババッ、ギギギギッ。
素人劇団の舞台転換じゃないんだから。
うるさいよ。もっと静かにやりなさいよ。
乱暴なアイツラは見頃な桜を散り降らせてしまうね。
きっと今日もどっかの街のどっかのコドモに、
ママ、桜ガ降ルヨ、キレイキレイと言わせてるけど、
きっとどこかの街のどっかのジイサンには、
来年ハ、コノ美シサヲ見届ケラレルダロウカと、
余計な心配もさせてるね。
ん?こっち?あぁ、毎日、忙しくしてる。
なんだか知らないけど。
イヤだなって思うことも多いよ。
大変なことを始めちゃったなとかね。
全部止めたらどんなにか楽だろうとかね。
だけどね。
そうやって冬のあいだは悶々としてたんだけどね。
この頃、うん。
家を出てくすぐったいような日には、
何か始めてみたいなとニコニコ歩いていたりね、
何かしなきゃだよねって、焦ってみたりね。
そんなこと考えてしまうんだよ。
なにに突き動かされてやっているのかな。
春の何にボクは操られてしまうのかな。
自分なりに考えて見たんだ。それは、たぶん・・・。
キミやアナタのおかげなんだ。
春風が吹き、看板がひっくり返り、
オヤジのヅラが取れ、美女のスカートがめくれ、
自転車がコケ、沈丁花やヒヤシンスの香りが届き、
桜吹雪のトンネルを自転車で走りぬけるとき、
キミやアナタが突如として現れ、
灰色のど真ん中で、ぬかるみにはまるボクの足を、
前に出そうとしてくれるんだ。
キミこそ元気?どこで何をしているの?
アナタはどこで、誰と、笑い、泣いているの?
今日は少し寒いね。
なに笑ってるの?おかしい?
あーそう。そうかな?
毎年冬の終わりには、そういうこと言ってる?
昔から言ってた? そう・・・。
風が強く吹いた暖かい冬の終わりに、
ボクはそういうことを思っていたのか。昔から。
そうなにょ。そうだったわよね。
そういうことも、そうだったことも、
君や貴方がいたから、覚えていられる。
風が吹くたびに。