頭の副作用

「頭が真っ白になってしまって、
なんにも浮かばなくなってしまいました。
ごめんなさい」

「いろんなこと考えているうちに、
どうしていいかわからなくなってしまって(涙)」

「やろうと思うと、
足がすくんでしまって固まってしまいます。
どうしたらいいですか」

という女の子が多い。
うちにいる良い子たちのはなしです。

こういう子たちをまとめて、
マメヒコではなんとか
スタッフにしていくわけですが。

どうしてこういう子が
マメヒコには多いのでしょう。
ボクなりの考察です。

マメヒコで働きたいと
申し出るスタッフは、
きちんとした家庭の子が多いんですね。
親御さんがしっかりなさっておられる。

お父さんは大きな会社に
勤めておいでだとか、
公務員、先生、勤務医、
というおうちが多い。

そんな子がどうして
うちに来るかというと、親から、
「あなたは、好きなことをすればいいのよ。
それが親の望み」
といわれて育ってきてるんですね。

そういう育ち方をされてますから、
みんな素直で良い子です。

ところが。

親御さんがしっかりしていると、
どっかで、親に見守られて
育ちますから、自発性に乏しい。
よく言えば調和型で、
悪く言えば指示待ちです。

自分で何とかしないとまずい、
という経験はしてないんですね。
そういう経験はしないで済むなら
しないほうがいいに決まってます。

それっぽいシュミレーションはしても、
シュミレーションは、所詮、
シュミレーションです。

そうしますとね。
身体的な感覚というのは
育たなくなるんですねー。

たとえば、ボクが彼女にテーブルを
拭いてくださいと言います。

そう言われたらそのとき、
台拭きはどの程度絞るのが最適なのか
ということが出てきますよね。
それがまったく、無意識のまま、
びしょびしょの台拭きで拭こうとする。

「なんでそんなびしょびしょなの。ちゃんと絞って」と言います。
「はい、すいませんでした」と答える。

頭で絞らなくちゃいけないもの
なんだな、と覚えます。
それで今度絞って拭くと、

「なんで机のゴミを床に落とすの?机は角から四角く拭きなさい。
あっ、ゴミは床に落とさない」
とまた叱ります。

で、「はいはい、すいませんでした」と答える。

そんなことやってますと、
コチラも疲れますが、
言われたほうも頭が疲れます。

一日中、頭の中が
覚えることでいっぱいになる。

覚えたらできると思うんですが、
これね、覚えているうちは
できませんよ。
頭で考えてやることじゃない。

そんな「当たり前」に
頭を使っていたら、
肝心なことを考えるスペースが
なくなってしまう。
彼女たちは頭の中では、
とても高度なことを考えていますから。
世界一のCafeにしたいというね。

頭の中で高度なことを考えていても、
基礎が身体的に自由にできなければ、
それは、むしろただのノイズです。

うちにいるミワも、いつも
頭が真っ白になっている一人です。
この回覧でも
よく書いているでしょう。

彼女はバレエダンスを
小さいころからやっているので、
身体的なことを使うのは、得意です。

ところが、お店に入って、
すべてを頭で考えようとする。
考えなかったら、
めちゃくちゃだからね。
考えてもらわないと困る。

けど、逆説的だけど、
考えていたらいつまで経っても
ダメなわけですよ。

かたっぱしに覚えていたら、
すぐ頭のスペースがなくなってしまう。
そうすると知力体力を
消耗してしまうんですね。
ボクは彼女にこう言うんです。

たとえば。
まだ、きちんとまっすぐに
立つこともできない
バレリーナが君の隣にいたとする。
その子に、白鳥の湖の役が回ってきた。
彼女は入ってすぐに、
こんなチャンスはないと、喜んでいる。
彼女は小さい時に見た、
白鳥の湖が好きで、
バレエをやろうと思いたったのだ。
千載一遇のチャンス。

彼女のお父さんは、
ムスメの役作りのためによかれと、
モスクワバレエ団のDVDを
買ってきてくれた。
イメージを作りたいと、
もうすり切れるほど見ている。

Youtubeで白鳥の動画も見た。
本物の白鳥から
インスピレーションをもらった。

ところが、彼女は、
まっすぐ立つこともできない。
演出家から言われた指示を、
すべて頭で処理し、
再現しようとしても、到底無理です。

君は、白鳥の湖を踊ろうとしている。
まずは、まっすぐに立つこと。
それができないときに、
DVDを見ることは、薬というよりは、
むしろ毒だ。

そういうと、わかったような
わかんないような顔をする。
そりゃそうです。
このボクの忠告も、
頭で理解させようという
筋書きになっているから。

頭で計算しちゃうヒトは、
すぐに先が見えちゃう。

私のような人間は
努力してもたかが知れてるな、
だからやめよう、
だから壊れるまでやろう、
と単純な解を脳は出しちゃうんです。

その時点でだめです。
少女歌劇団を始めようと思ったのは、
そういう副作用で
困っている女の子が多いからです。

頭を使うことは、
とてもいいことのように
言われてますが、
その副作用については、
あまり語るヒトがいないのは、
なぜでしょうか。

大人たちこそ、その副作用に、
かかっている張本人
だからかもしれません。


いや、あなたではない。
あなたではなくて、あなたの隣で、
忙しそうにしている、そのヒトです。

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ご近所さんの回覧板

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