はねつるべの逸話

中国の思想家の荘子の話で、はねつるべの逸話っていうのがあってね。

あるヒトが旅の途中で老人を見かけた。その老人は大きな桶で深い井戸の底まで降りて行って、上がってきては畑に水を撒いてる。傍から見るに、非常に効率が悪い。そこで彼は、はねつるべという便利な機械があるから、これを使うと簡単に水が撒けますよと言った。すると、老人は、そんなものは知ってる。ああいう便利な機械(からくり)を使ってことを進めると、必ず人間はからくり心がよぎる。こうやったら儲けられるというからくり心では、道を踏み外すんだよと。だから私は、はねつるべは使わないんだと。

それを聞いて、自分は恥ずかしいことを指摘したと、我に返ったという話。

このはねつるべの逸話は示唆に富んでいる。

この前、ずっと通っていた老舗の洋食屋さんに十数年ぶりに行ったんだけど、がらがらでね。前はいつも賑わっていて、味もよかったんだけど、注文はタッチパネルで注文してくださいとなっていてね。そういう風情のあった洋食屋さんは味だけじゃなく、いろんなトータルでその味を決めていたのにどうなのかなぁってボクなんかは思ったよね。

翻って、自分の店は日々のことに、このはねつるべを使ってないか?

例えばね、MAMEHICOは、ポットとカップをトレーに載せてお客さんに出してるんだけど、現場のスタッフに聞くと、トレーは良いけども、同時に23つ運べないし、食器を下げる時も、結局はトレンチの上にポットとカップを複数乗っけて、トレーはテーブルの上に置いてるんだと聞いて、ああ、こりゃ面倒だなと。

でも、これはからくり心だからね。面倒でも、一人ずつに向き合って運ぶというのも大切なんじゃないかということもあるよね。

でも、いろんなことが複雑になってるこの時代に、どこまでのはねつるべなら納得できるのかは、ヒトに教わることじゃないと思うんだよ。

はねつるべの逸話は、ヒトはひとたび、からくり心という負のループにはまっちゃうと、際限なくダメな方向に行っちゃうから、負のループに陥らないように気をつけとるんじゃ、わしは。というエピソードかもしれないね。

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