銀座のMAMEHICOにはステージがある。
せっかくそんなところでお店をやっているのだから、音楽イベントをたくさん企画して実行しようと、ボクは今、意気込んでいる。
そんでもって、秋以降にライブをしてもらうミュージシャンを探しては、次々と面談をしている。
やり方は、いろいろあっていい、とにかく会って波長が合い、盛り上がりそうな予感があることが肝心だ。
先だって、ある若手のミュージシャンとの面談。
「ほんとうはもっと好きな音楽をやりたいのに、金がないからできないっすよ。
音楽以外の仕事もしなくちゃいけないっすから、好きなことに振り分ける時間もないし。
外食とか、今めっちゃ高いじゃないですか。
だから最近はラーメンすら食べるの、ためらっちゃうんすよね。
やんなっちゃうなってね。
知り合いのミュージシャンのなかには、1ステージ15万とか稼いでるやつもいるんで、
ああ、オレもそうなれたら、どんなにかいいだろって、思うんすよ、てへ」
半笑いでボヤく、さほど若くもないミュージシャンを前に、ボクはもやもやした気分でいた。
こっちはライブを企画する立場。
高額な家賃を払い、お客を集める苦労もあって、ボヤきたいのは同じだ。
でもこんなボヤきをXにでもアップしようものなら、好きな音楽やってるくせに文句言うな、だったらやめろ、だのと、いたずらに傷つける言葉が飛び交うだろう。
時間とお金。才能と運。
世の中はミヒャエル・エンデの『モモ』に出てくる灰色の男たちよろしく、生産性や効率といった「数値」で、人間の価値を決めている。
それは自由人の代名詞でもあるミュージシャンとて、同時代に生きているわけだから同じだ。
近視眼的で功利主義的な価値観で、ミュージシャンを続けようとすれば、それはどこかで辻褄が合わなくなり、疲弊するだろう。
昨今の音楽事情を鑑みれば、彼、彼女たちが、もっともっとギャラの良いところで音楽を続けたい、そう考えることは自然であるけれど、決して明るい未来とはいえない気もする。
「MAMEHICOってどうやって成り立ってるんですか?」
そのミュージシャンに質問された。
「成り立つ、ね」
おそらく、金のはなしを聞いてるんじゃないかと思う。
果たしてMAMEHICOは「成り立っている」のか?
自問自答してみる。
家賃は払っているし、銀行の借金も返していて、従業員もいるわけだから、かろうじて「成り立っている」のかしら。
でも、功利主義的な価値観で見たら、まったくもってMAMEHICOは成り立っていないと思う。
だから「どうやって成り立っているのか」という彼の、「うまいやり方」を聞き出したい質問の答えにはちっともならないだろうけど、ボクなりに気をつけていること、それは次のような簡単な哲学だ。
世間の価値観におもねって、すり減ることはしないと決める。
すり減ってしまうと、考える体力を失って冷静ではいられなくなる。
そのことが怖い。
すり減りそうになったら距離を取る。
そして、それでもすり減ったら、ところ構わず寝る。
ミュージシャンやイベンターで共感した方はご連絡を。
そんなヒト、いないか。苦笑