『ベアトリネエチャン』の上演

6月に銀座で上演する演劇『ベアトリネエチャン』の脚本を書き上げ、ただいま稽古真っ最中だ。
大正時代の浅草が舞台で、地震が来るという信憑性の高い情報を聞いて劇団員が右往左往するという話。

今回の劇の日程は、ボクが作・演出を務めた、昨年末の舞台「ぽうく」の再演する予定だった。
ところが主演の俳優が出られなくなり、急遽、残るメンバーのために書き下ろしたものだ。

日程が迫る中、出演するメンバーは演劇の未経験者ばかり。
とにかく脚本を書いて渡さなければ、時間がない。
難しい役をこなせるわけはないし、かといって、あまりにひどいものをお客さんにお見せするわけにはいかない。
そして、ボクはこの作品の演出に参加することがスケジュール的に難しいので、娘のららはが演出することになっている。

ボクに出来るのは、できるだけ役者さんの良い部分が引き出され、かつ演りやすい脚本を書くことだと思った。
移動時間に、何度もプロットを練る。
求められていることは、なんなのかはわかっている。
かといって、思い通りにそれが書けるかと言うと、そうもいかない。
とくに普段から存在感の薄い乙目くんが今回の演劇に出るという。
彼にどう光を当てたらいいのか、難しかった。

彼は去年の秋、SNSを通じてボクに連絡を取ってきた20代の若者だ。
わざわざボクのアカウントを調べて連絡を取ってくるくらいだから、鼻息荒い青年かと思ったら、どっこいまったくの逆のタイプで驚かされた。

その彼は口癖で「たしかに」とよく言う。
「キミはイチゴが苦手だと言っていたわりに、ずいぶんと美味しそうにイチゴを食べてるじゃないか」
「あっ、たしかに」といった具合で使う。

乙目くんと一時間会話してると、おそらく20回は「たしかに」という。

「たしかに。井川さん、あなたがおっしゃるとおりです」という意味で使っているから、謙遜気味の好青年の印象を持つが、連発されてるとなぜかイライラしてくる。
むしろ小馬鹿にされてる気さえしてくる。

童顔の彼だが、羊の仮面を被って見せているだけで、本当は小悪魔なんではないかと疑ってしまう。
なんていうか、素性が見えにくい。
脚本は彼の当て書きだから、ボクはその印象で、彼が演じるソウタという役を書ききった。
彼は全編出ずっばりの役で台詞も多いが、しかしその台詞は「たしかに」ひとつしかないという脚本にした。
彼は、あらゆる場面で「たしかに」を連発するが、シーンに合わせた「たしかに」を細かく演じ分けなくてはいけない。
本番が実に楽しみだ。

今回の「ベアトリネエチャン」は、みんな40代以下のメンバーで構成されている。
主役に抜擢した悠花ちゃんは、若干16歳だ。
空水茶屋のイベントで楽しそうに笑っている姿を見て、出てみないかと声をかけてみたら、すぐにやりたいと返事が来た。

どこに到達するかわからない旅に参加することは、自分を大いに成長させる。
これはボクの経験則だ。
仲間を信じなくてはいけないし、なにより選択した自分を信じなくてはいけない。
ちょっとした偶然の積み重ねで人生は大きく変わる。
若ければ若いほどそうだろう。

銀座のMAMEHICOで6月1日、2日、合わせて4公演やるので、ぜひ観に行ってあげてください。

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