「効率化」について

ボクは長年カフェをやってきたので、実に様々な、およそ利害関係のない、単なるお客さんと会って話をすることが多い。
なかには職業を話さないヒトもいるし、話すヒトもいる。
どこでどんな暮らしをしているのか話さないヒトもいるし、聞いてもないのに、積極的に話しをするヒトもいる。

先だって出会った大学の先生は、いきなり膝を突合して、次々とボクの前で熱弁を振るいます。
彼は、いまの社会が、経済効率やコスト効率、ひたすらに「効率」を求め、それを正当化しすぎている、このままの日本じゃダメだと嘆いています。

社会のシステムが隅々にまで行きわたってしまってるわけですね。
そうなるとヒトは、単なるその歯車になってしまうわけです。
歯車として、どれだけ役に立つか。
それで人間を評価していく社会、こんなのはまったくもって、おかしいのです。
高速化するシステム、その処理スピードに合わせて人間も生きていかなくてはいけない。

いまSNSを見ると、その場限りの価値しか持たない情報を、みんなで発信したり、消費したりしているでしょう。ひどい有り様ですね。
短命の情報のやりとりで済ましている。
そんな社会は誰も幸福にしませんよ。
この社会はとても間違っているんです。

MAMEHICOをやってる井川さんなら、このはなし、わかっていただけますでしょう?」
と不意に尋ねられた。

うーんと考えた。言ってることはわかる。
わかるけど、なんとなくその先生の言葉の端々に、いやらしいものを感じた。生理的に嫌いっていう、それ。

「まあたしかにね。人間は効率のために生きてるわけじゃないですね」

「ええ、ええ、まったく」

「システムの奴隷になること、そんなのはまったくもって間違っていて、人生の目的であるはずもない」

「ですです、ええ、さすが井川さん」

「ただね。ボクは了見の狭い男なのかな。
スタッフが時間もお金も無尽蔵にあるように振る舞っていると腹が立ちます。
ボケっとしてんじゃねーよ、バーカと言ってしまいます。

蛇口から水をジャブジャブ出していても弱める気もないその無神経さ。
お客さんを待たせていても、ペースを上げないお嬢ちゃん根性。
みんなそれぞれのペースでいいのよ、それでお金や時間を無尽蔵に使われたらたまったもんじゃない。

効率よく店が回せたとき、お店ってカチッと音がするんですよ。
そのときはスタッフみんな、ハッピーな顔つきになりますからね」
と答えてみた。

そしたら、
「ああ、そうですか」
とそれきり先生は黙って、珈琲を飲んでいた。

昔からボクは、こういう意地悪な面があるのです。

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