「人間の脆さ」について

ボクの名前は「いかわよしひろ」で、伊丹十三さんの本名は「いけうちよしひろ」さん。
似ていますでしょう。

その伊丹十三さんのお父様、伊丹万作さんが書かれた「戦争責任者の問題」という書があります。

戦後、万作さんが戦時中おかしいと感じていたことを綴ったものです。
日頃ボクが感じていることと近しいものがあるので、下記に読みやすく、ボクが書き起こしたものを紹介します。

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伊丹『多くの人が「今回の戦争では騙されていた」と言ってますね。
誰もがみな、口を揃えて「騙されていた」と。
しかし不思議なことに、「自分が騙した」と言う人は、私の知っている限り一人もいません。

多くの人は、騙した側と騙された側がはっきりしている、そう思っているようですがね、それは錯覚だと思います。

例えば。
一般の人は「軍や政府に騙された」と言う、軍や政府の中にいる人たちはさらに「上の人たちに騙された」と言う。
さらに、さらに、上の人に行けば「もっと上から騙された」と言う。
こんなことを続けていたら、最終的には、たった一人か二人の人間だけが騙していたことになりますよ。
いくら何でもそんな一人か二人の知恵で、一億人を騙すことなんてできないと思いませんか。

つまり、実際に騙していた人間の数は、一般に考えられているよりもずっと多いのですよ。
そして、それは単に「騙す側」と「騙される側」に分かれていたわけではなく、ある人が誰かに騙される、すると、その人がまた別の誰かを騙す。
そんな繰り返しが続き、日本全体が夢中になって互いに騙し合っていたのです。

このことは、戦争中の行政の動きや新聞報道の愚かさ、ラジオのばかげた内容、町会や隣組、警防団、婦人会。
それらの組織がどれだけ熱心に自発的に「騙す側」に協力していたかを思い出せば、すぐにわかることです。

しかし、多くの人は今でも「自分だけは人を騙さなかった」と、信じているのではないでしょうか。
そこで私はあなたに問いたい。
「あなたは戦争中、ただの一度も自分の子供に嘘をつきませんでしたか?」と。
たとえ意識して嘘をつかなかったとしても、戦争中に一度も間違ったことを子供に教えなかった親が果たしているでしょうか。

私たちは、騙す人がいても、誰一人として騙されることがなければ、今回のような戦争は成り立たなかったはずです。
つまり、戦争は「騙す者」と「騙される者」が揃わなければ起きないのです。
だからこそ、戦争の責任も両方にあると考えるべきです。

私たちが進むべき道は、他人の戦争責任を追求すること以上に、自らの中にある脆さや、自分自身がいかにして騙されてきたかを深く理解し、反省し、変わろうとする努力を始めることです。
それがなければ、私たち日本国民はまた同じように騙され続けるでしょう。
そしてそのたびに、今度はもっと深刻な結果を招くかもしれません。
なによりまず、私たち自身が騙されないような社会を築くことこそが、本当に大切なことだと思います。

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時代の転換期はいつも人々は混乱します。
過ぎたことに、「馬鹿なことしてしまった」と反省するか。
「あの時は仕方なかった」と開き直るか。
「まだその話してるのかよ」と論点をずらすのか。

伊丹万作さんの原文は、青空文庫でも読めるので読んでみてください。

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